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君は本当に正確なラーメンのスープを飲んだことがあるか

前田 大地

ウェブデザインに正解はない。しかし、多くの物事には真なる数値があり、私が知りたいのはそれだ。

先日のこと。厨房が見えるタイプのラーメン屋さんに行ったので、「きっとこの人はラーメン職人を目指しているのだろう」と疑われるくらい、ラーメン作りを凝視していた。店主はこちらの視線に気付いたようだが、何事もなかったように真剣にラーメンを作っている。しばらく観察していたのだが、どんぶりにタレとダシを入れてスープを調合するところで思わず「あ…」と小さな声が出てしまった。

……ええと、今、目分量でした、、よね?

タレにダシを合わせるとき、かなりアバウトな感じで注がれていた。気がする。けれど、もしかして私の見間違いかな。うん、見間違いだろう。あの見るからに職人気質な店主が、目分量だなんてそんなまさか。そんなこと言ったら、作るたびにスープの濃さが変わるってことですからね。いくらなんでもそれはないですよね。

もう一度、じっくり様子を伺う。

用意されたどんぶりに、タレを小さな金属製のヒシャクみたいなやつで慎重に注ぐ。問題ない。なかなか、繊細な手つきだ。次に、大きめのお玉みたいなやつで寸胴鍋からダシをすくい上げる。それを網みたいなもので濾しながら、どんぶりへと豪快に注いだ。

……やっぱり目分量です、、かな?

すぐに結論を出すのは早計である。私は真実を知りたいだけだ。すると、今度は同時に2杯つくるらしい。どんぶりを2つ並べて準備している。最初に入れるタレはいい。小さな容器にすり切りで正確に計量している。だが、問題はダシだ。このダシの注ぎ方はまずい。まずいけれど、もしかしたら長年の修行によって正確な目分量を身に着けているのかもしれない。そう考えた矢先、2つのどんぶりを並べたことが仇となる。この距離で見ても、明らかに左のどんぶりのスープが少ない。

……間違いない。目分量です。

あなたは、水で薄めて作るカルピスをご存知だろうか。私が子どもの頃、カルピスの原液に対する水の量は経験と勘だけが頼りだった。一口飲んでみて、濃すぎたら水を追加したり、逆に薄くて味気なくなることもあった。使用するコップによっても目分量が狂いやすく、いつも違う濃さのカルピスを飲んでいたように思う。計量カップを使ってラベルに書かれた分量通りに作ってみたこともあるが、それが本当に正しい濃さなのかは誰にも分からなかった。しかし、今はカルピスウォーターという商品を買えば正確で公式な分量のカルピスが飲める。それはつまり、開発者の意図した「真なる濃度」が明らかになった歴史的瞬間なのだ。

そして私は今、ラーメンの塩分濃度問題に立ち向かっている。正直な話、ここ数年、どこのラーメン屋に行ってもラーメンが塩辛く感じるのだ。本当にこの味で正解なのか疑問に思いながら、それでも出されたものを食べるしかない。こっそりコップの水を足したら丁度いい味になってしまい、余計に混乱したことすらある。家で食べるインスタントラーメンやカップラーメンのスープは丁度いい濃さなのに、どうして外食のラーメンはこうも私の不安を煽るのだろうか。私の味の好みの話をしているのではない。店主が、毎晩毎晩試行錯誤を重ねて、「こ、この味だ!」と深夜3時にメニュー化を決意したときのラーメン。本当にそのラーメンと同じものが味わえているのかどうかの問題なのだ。だから、正確な分量で作っているのをこの目で確認して、心から安堵してラーメンを食したいのだ。

そうこうしているうちに、麺が入れられトッピングが施される。スープの少ない左側のラーメンだけネギが抜かれていた。ば、馬鹿な。アダルトな社会人で賑わうランチタイムに恥ずかしげもなくネギ抜きを注文するようなやつはおそらく一人しかいない。……私だ!

案の定、店主は私に笑顔で例のラーメンを差し出した。ペコリと会釈をして受け取る私。平静を装うものの、その胸中は、「漂流教室」で選挙に敗れ学校を追い出された女番長からお前も一緒に来いと言われたときの赤羽くんがダブって見えるほどだったという。

今日もまた、正しいラーメンを食べることは叶わなかった。しかし私は諦めない。本当に正確なラーメンのスープを飲むその日まで。

Web Designer / Developer

前田 大地

沼津高専中退。デザイン会社、システム開発会社を経てセブンシックスを設立。マーケティング、デザイン、テクノロジーに精通するオールラウンダーとして、県内の中小企業に向けた戦略型ホームページ制作を開始。一方で、都内の広告代理店からの要請で大企業案件にも多数参加。企業が本当に必要とするホームページ制作とは何か、を日々探求している。

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